vol.01 シャトル事故から二年。唯一の生還者、操縦ミス・パイロットの息子の今。
皆さんは二年前に起きた、あの悲惨な事故の記事を覚えているだろうか?
人類史上、唯一のケースとなった民間宇宙機における死傷事故。たくさんの乗客の夢と希望を乗せて月へと飛び立つはずだった当時の最新鋭シャトル、ISDA29便の墜落事故である。
多くの人々に見送られながら発進したシャトル。地上での歓声は、すぐさま悲鳴へと変わった。わずか数分後にはシャトルは空中で大爆発を起こし、乗組員及び乗客は爆発に巻き込まれるか、船外に投げ出されそのまま海面へと落下し、尊い命を一瞬にして失っている。
遺体が見つかればまだマシだともいえるくらいで、見つかったとしても、人の形を留めていないものが大半を占めていた。本誌では事故当時の第一報として、生存者の可能性はほぼ絶望的とお伝えしていたが、その後に奇跡的に生還者が発見され、世間の注目を集めたことを記憶されている方も多いだろう。一躍時の人となった彼も、いまや18歳の青年へと成長を遂げている。しかし、奇跡のヒーローと祭り上げられた彼のその後の人生は、決して明るいものとはいえなかった——。
あの事故で両親と妹を失った彼は、現在は親戚宅へと引き取られ、普通に高校生活を送っている。二年もあれば、心の傷が完全に癒えることはなくとも、それなりに明るい笑顔を取り戻せてもおかしくはないはずだ。だが、彼の目には事故以前のような光が点ることはいまだにない。
何故なら、「父親が起こした事故でひとりだけのうのうと助かった」という心ない噂が、どこに行っても付きまとうからだ。
ISDAの調査の結果、あの事故は機長の操縦ミスが原因だと特定されている。決してフライト経験が少ないわけではなかった機長が、そのような単純なミスを犯すことなど考えにくかったのだが、そう結論づけられてしまったのだから仕方がない。問題は、残された長男への影響だった。ヒーローから一転して卑怯者呼ばわりを受けるようになり、何度も親戚の家を盥回しにされ、転校を繰り返す破目に陥っているのである。
心情的にはここで長男を全面的に擁護する記事を書いてもいいのだが、彼の生還については多くの疑問が残るのもまた事実。
先述したように、遺体も残らないような事故であったのにも関わらず、高高度から落下した彼の体にはほとんど外傷が見られなかった。そして、彼は事故現場から遠く離れた海岸に打ち上げられたところを発見されている。しかも、その際には海中を漂ってきた形跡は皆無だったとか。
つまり、彼は爆発地点から海岸まで、きれいに着地したことになるのである。なお、これはISDAの公式発表ではなく、本誌独自の取材により判明した事実である。
ISDA側ではもっともらしい理由をこじつけて彼の生還を説明しているが、そのどれもが信憑性に欠けているのは明白だ。
ならば、彼だけが生還した真の理由とは一体何なのであろうか?
その真相の究明に成功すれば、事故の全貌もまた、二年越しで白日のもとに晒されることになるだろう。